説教全文

2021年1月3日(日) 私たちの主の顕現

聖書箇所 説教全文

説教全文

「その方の星が昇るのを見た」

マタイの福音書2章1-12節

牧師 若林 學

 私たちの父なる神と主イエス・キリストから、恵みと平安とがあなたがたの上にありますように。アーメン。

 昔から1月6日は神の御子、幼子のイエス・キリストがユダヤ人以外の民族(異邦人)にご自身を示された顕現日(けんげんび)と定められております。クリスマスにイエス様が誕生されたあとの出来事を振り返ってみますと次の様になります。
 住民登録に集まってきた人々が溢れるベツレヘムの町においては、どこの宿屋も満室で、客室に泊まれなかったヨセフさんとマリアさんは、生まれたばかりの赤ちゃんを飼葉桶に寝かせました。その晩、この赤ちゃんは御使いのお告げに導かれた羊飼いたちや近所のユダヤ人たちに顕現されました。それから八日目に割礼を受けられ、イエスと命名され、母親マリアさんと共に、律法に定められた清めの期間の40日間、家に閉じこもっておられました。そしてその期間が満ちると、エルサレム神殿に連れて行かれ、シメオンさんやアンナさんたちに顕現され、神様に奉献されました。
 その後、イエス様は、御自身を異邦人たちに顕現されました。「顕現」とは、神や仏が人間にはっきりと姿を現すことを言います。この意味は人間となられた赤ちゃんのイエス様は、「神様である。」と言うことです。
 イエス様は赤ちゃんといえども神様ですから、全能のお方です。ですから自分で動くことが出来ないわけではありません。しかし、生まれたての赤ちゃんが、すっくと立って、スタスタと歩きだしたら、両親はあっと驚くでしょうし、「お父さん、お母さん」と大人のように話し出したら、宇宙人が現れたのかと、誰でも仰天します。ですから、赤ちゃんのイエス様は、外見は人間の赤ちゃんと全く同じように親のなすがままにさせておられたのです。
 私は、クリスマス・イブの説教で、イエス様は母親のマリアさんに働かれて、ご自分を飼葉桶に寝かせるようにさせられたとお話ししました。この様に考えると本日の聖書箇所も説明がし易くなりますし、皆様にも理解していただけるのではと思います。

 さて、東の方から博士たちがエルサレムにやって来て、この様に言いました。「ユダヤ人の王としてお生まれになった方は、どこにおられますか。私たちはその方の星が昇るのを見たので、礼拝するために来ました。」この博士たちの言葉から、様々な情報が伝わって来ます。この言葉の中で肝心な言葉は最期の言葉です。「私たちはその方の星が昇るのを見たので、礼拝するために来ました。」博士たちは「その方の星」と言っています。「そのかたの星」とは、「その方が遣わされた星」と取って良いでしょう。ルカの福音書2章9節では、主の使いが羊飼いたちに現れています。この「主の使い」とは「主が遣わされた御使い」のことです。
 この星が、異邦人の博士たちにこのように話しかけたと思われます。「今日わたしはユダヤ人の王として生まれた。わたしは神である。そしてわたしは救い主である。わたしを礼拝するためにユダヤに上って来なさい。」異邦人の代表者たちとして、この博士たちに星が現れたのですから、この博士たちは、まことの神様を求める信仰深い人たちであったと言えます。詩篇53篇2節にこのような御言葉が有ります。「神は天から人の子らを見下ろされた。悟る者、神を求める者がいるかどうかと。」神様はいつもご自分を求める人を捜しておられることが分かります。

 この東の博士たちの言葉を聞いて動揺したのはヘロデ王です。ヘロデ王は純粋のユダヤ人ではなくイドマヤ人でした。イドマヤ人はエサウの子孫で、ユダヤ人の祖先ヤコブの子孫ではなく、ヤコブの兄のエサウの子孫でした。イドマヤ人のヘロデは、ユダヤ人の王様になれる筈がないのですが、時はローマ帝国の時代です。ヘロデはローマ皇帝に取り入って、ローマ帝国の属国となっていたユダヤの国の王様に君臨していたのです。ですからヘロデ王は「ユダヤ人の王が生まれた」と言う情報に動揺しました。自分の地位を脅かす者が現れたからです。さっそく殺害計画が始まりました。ヘロデ王は祭司長たちや民の律法学者たちを集め、「キリストはどこで生まれるのか」と問いただしました。このヘロデ王の「キリスト」という言葉から、「ユダヤ人の王とはキリスト、即ち救い主である。」とヘロデ王は知っていたということが分かります。そして多分そのキリストがユダヤのベツレヘムで生まれることも知っていたと思われます。民衆でさえも、キリストがベツレヘムから出ると知っていたからです。ヨハネ福音書7章42節には、このように書いてあります。「キリストはダビデの子孫から、ダビデがいた村、ベツレヘムから出ると、聖書は言っているではないか。」ヘロデ王は、キリストがどこで生まれるのか知っていたけれども、公式情報が欲しかったのです。王様ですから、自分の家来を動かすためには、自分の思い込みで行うよりも、権威ある情報に頼る方が政治を行い易いからでしょう。そこで祭司や律法学者たちから構成されているユダヤ人の議会サンヒドリンに問いただしました。すると自分が思っていた通りの答えが返ってきたのです。やはりベツレヘムです。

 そこでヘロデ王は博士たちを秘かに呼んで、彼らから、星が現れた時期について詳しく聞き出しました。このヘロデ王の「ひそかに呼んで」と言う行為が意味深長です。これから自分が行うことが家来たちや民衆に漏れてしまうと、失敗することが考えられたからです。ヘロデ王は最悪の事を考えて極秘裏に対処していたということが分かります。それは万一、博士たちから新しく生まれたユダヤの王の情報を得られない時のことを想定していたのです。つまりヘロデ王は、キリストを人間ではないと見ていた節が有ります。東の国の博士たちがわざわざ遠いユダヤ迄礼拝するために来るには深い訳(わけ)がある筈です。特に、「礼拝するために来た。」と言う博士たちの言葉が気になったようです。このキリストはひょっとしたら神として生まれた赤子かもしれない、と恐れたのです。その赤子を必ず殺さないと、自分と自分の後継者の地位が脅かされると感じたのです。それで、博士たちにうまく立ち回られて、騙され、逃げられても、その赤子を亡き者にする手立てを得ようとしていました。そう言う訳で、博士たちに聞きました。「あなたがたが見た星は何時現れたのか。」ヘロデ王は「ユダヤ人の王はいつ生まれたのか」とは問うていません。そのように聞いたら、自分がユダヤ人の新しい王に興味を持っていることが知られてしまうからです。しかし、「あなたがたが見た星はいつ現れたのか。」と聞く分には、星に興味があるとしか受け取られません。悪賢いヘロデ王は慎重に事を進めたのです。星が現れた時期が分かれば、そこから計算して、ユダヤ人の王として生まれた赤子の年齢が分かります。母親が赤子を出産した日と、星が昇った日は一致すると推定されるからです。博士たちは星の現れた時期について答えたでしょうか。マタイの福音書2章16節を見ますと、「博士たちから詳しく聞いていた時期に基づいて」とありますから、博士たちは素直に詳しく答えたことが分かります。
 ヘロデ王は自分の陰謀を悟られまいとして、自分があたかも信仰深いかのように装って言いました。「行って幼子について詳しく調べ、見つけたら知らせてもらいたい。私も行って拝むから」。ヘロデ王は、自分も拝めるようにと言っていますが、それは真っ赤な嘘ですね。

 博士たちはヘロデ王の言うことを聞いて、ベツレヘム目指して歩き出しました。しかしその時には、日もとっぷりと暮れ、あたりは暗くなっていました。ヘロデ王は博士たちが素朴で、人を疑わない性格であることを見て、「この人たちなら、自分の言うことを聞いて、必ず戻ってきて報告する」と確信していました。万一博士たちが戻って来なくとも、「赤子の生まれた時期も分かったから、大丈夫だ。」またそのまま、博士たちを送り出したのは、「変に人を付けてあげると、逆に疑われて、殺害の意図が知られてしまい、赤子の居場所が分からなくなる」、と恐れたからです。
 しかしこのヘロデ王の不気味な慎重さが、博士たちを一層不安に陥れました。夕方の薄暗がりの中に放り出され、これからベツレヘムの家一軒一軒しらみつぶしに調べ、ユダヤ人の王としてお生まれになった幼子のいる家を捜しださなければならないと思うと、ますます気が重くなってきました。そんな時、何と東の方でかつて見たあの星が、彼らの先に立って進み、ついに幼子のいる所まで来て、その上にとどまったのです。博士たちはその星を見て、歓呼の声を上げて大喜びしました。彼らは暗闇の中に、神様の導きを得たのです。
 博士たちは星のとどまった家の扉を叩くと、中からヨセフさんが戸を開き、博士たちを招き入れました。博士たちは母マリアさんと共にいる幼子を見て、ひれ伏して礼拝しました。その時博士たちは、心の中でこのような声を聞いたことでしょう。「博士たちよ。遠路はるばる私を拝みに来てくれた。ご苦労であった。あなたがたがどんなに信仰深いかは、私は知っている。あなたがたは異邦人としての最初の礼拝者たちだ。あなたがたへの報いは大きい。私と共に喜んでくれ。」博士たちは自分たちの長旅を主が知っておられことを聞き、苦労が報われたことを感謝しました。そして宝の箱を開け、黄金、乳香、没薬を贈り物として捧げました。黄金は幼子が王様であることを表し、乳香は幼子が神様であることを表し、没薬は幼子が古今東西の全ての人々の罪の身代わりとなって死ぬ救い主であることを表していました。
 博士たちはその晩ヨセフさん、マリアさん、そしてイエス様と共に寝ました。ところが夢の中で、ヘロデのところに戻らないようにと警告されたので、博士たちは直ちに起きて、別の道から自分たちの国に帰って行きました。

 このように、東の国から来た博士たちは、「その方の星が昇るのを見た」ので、遠路はるばるユダヤの国まで旅をしてきました。その星が博士たちにこの様に告げたからです。「今日、私はユダヤ人の王として生まれた。私は全人類の神である。そして全人類のために贖(あがな)いの代価として死ぬ救い主である。私を礼拝するためにユダヤへ上って来なさい。」博士たちはこの星の言葉に従順に従い、エルサレムまでやって来ました。そこではヘロデ王と面会するという出来事が有りましたが、このヘロデ王からベツレヘムへの道に放り出されて、途方に暮れていると、かつて「昇るのを見たあの星」が再び彼らに現れ、彼らを幼子のいる家まで導いたのです。その結果、博士たちは、ユダヤ人の王であり、神であり、救い主であられるお方イエス様とまみえ、最初の異邦人としてイエス様を礼拝するという光栄に与りました。私たちがイエス様とまみえ、イエス様を礼拝する方法が一つだけあります。それは博士たちがまことの神様を求めたように、まことの神であるイエス様を求めることです。「イエス様。私はあなたにお会いしたいので、私を導いてください。」とお祈りすることです。忍耐強く祈り求めれば、必ず聞き届けていただけます。求めるならば、私たちは星の仲介なく、直接イエス様へと導かれます。そしてイエス様は私たちを罪の赦(ゆる)しへと導いてくださいます。イエス様とまみえた方は、イエス様を礼拝しましょう。そしてイエス様に導かれ、守られ、祝福された人生を送らせていただきましょう。

 全ての人々の考えに勝る神の平安が、あなた方の心と思いを、キリスト・イエスにあって守ってくださいますように。アーメン。

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