19 その日、すなわち週の初めの日の夕方のことであった。弟子たちがいた所では、ユダヤ人を恐れて戸がしめてあったが、イエスが来られ、彼らの中に立って言われた。「平安があなたがたにあるように。」

20 こう言ってイエスは、その手とわき腹を彼らに示された。弟子たちは、主を見て喜んだ。

21 イエスはもう一度、彼らに言われた。「平安があなたがたにあるように。父がわたしを遣わしたように、わたしもあなたがたを遣わします。」

22 そして、こう言われると、彼らに息を吹きかけて言われた。「聖霊を受けなさい。

23 あなたがたがだれかの罪を赦すなら、その人の罪は赦され、あなたがたがだれかの罪をそのまま残すなら、それはそのまま残ります。」

24 十二弟子のひとりで、デドモと呼ばれるトマスは、イエスが来られたときに、彼らといっしょにいなかった。

25 それで、ほかの弟子たちが彼に「私たちは主を見た」と言った。しかし、トマスは彼らに「私は、その手に釘の跡を見、私の指を釘のところに差し入れ、また私の手をそのわきに差し入れてみなければ、決して信じません」と言った。

26 八日後に、弟子たちはまた室内におり、トマスも彼らといっしょにいた。戸が閉じられていたが、イエスが来て、彼らの中に立って「平安があなたがたにあるように」と言われた。

27 それからトマスに言われた。「あなたの指をここにつけて、わたしの手を見なさい。手を伸ばして、わたしのわきに差し入れなさい。信じない者にならないで、信じる者になりなさい。」

28 トマスは答えてイエスに言った。「私の主。私の神。」

29 イエスは彼に言われた。「あなたはわたしを見たから信じたのですか。見ずに信じる者は幸いです。」

30 この書には書かれていないが、まだほかの多くのしるしをも、イエスは弟子たちの前で行われた。

31 しかし、これらのことが書かれたのは、イエスが神の子キリストであることを、あなたがたが信じるため、また、あなたがたが信じて、イエスの御名によっていのちを得るためである。

（新改訳聖書第3版）

2018年4月8日（日）　　復活節第二主日

「信じる者になりなさい」　　　　　ヨハネの福音書　20章19-31節

牧師　若林學　　　　　　

今から20年程昔、私がアメリカの神学校で学んでいた時の話です。フィールド・ワーカーとして派遣された教会では、毎週日曜日の朝、一般会員のためのバイブルクラスがありました。そのクラスで、主任牧師から「マナブ。アメリカでは葬儀の後、遺体は土葬にするが、日本ではどうか。」と聞かれ、「火葬が一般的です。」と答えたら、クラスの人から「それじゃ、復活した時、体が無いじゃないか。」と言われ、「アメリカではどうしているのですか。」と聞き返したら、「もちろん土葬だよ。信仰にかなっているじゃないか。」そうしたら、カリフォルニア州から来た人が「あら、カリフォルニア州では火葬にする人が増えてきていますよ。」と助け舟を出してくれました。土葬にしろ、火葬にしろ、遺体は土に返るので同じです。

イエス様も十字架上で亡くなられた後、近くにあるお墓に葬られました。しかし三日後の日曜日の朝早く復活されて、お墓から消えてしまわれました。お墓の中に残されていたのは、遺体を巻いていた亜麻布だけでした。その日の夕方イエス様は、弟子たちが集まっている真ん中に現れ、ご自分の両手を示して、「さわって、よく見なさい」（ルカの福音書24章39節）と命じられました。弟子たちにご自分の本人確認を求められたのです。「触れ」と命じられたので、弟子たちは皆心行くまで触りました。手の釘穴に指を差し入れて、確かに十字架に付けられたイエス様だと確認したのです。ご自分の復活を認めたその弟子たちに、イエス様は新しい任務を授けられました。それは、ご自分が復活されたことを、証人として宣べ伝える任務でした。しかし問題がありました。弟子たちでさえ信じられなかったのに、ましてや弟子でない人は信じられるのかということです。

その問題を解決する人が、本日の主人公トマスです。トマスは「疑い深いトマス」と呼ばれ、疑い深い人の代名詞となっている人です。このトマスは、イエス様の三度にわたる復活預言を真面目に受け取らず、様々な弟子たちのイエス様復活報告を無視し、自分を除く弟子たち全員が復活のイエス様を見たという圧倒的な証を信じなかった人です。そして言ったのです。「私は、その手に釘の跡を見、私の指を釘のところに差し入れ、また私の手をそのわきに差し入れてみなければ、決して信じない。」トマスは意固地な常識人でした。自分自身が確認していない事は信じられないのです。こういう人は世の中に多くいます。

さて次の日曜日の夕方、弟子たちが家の中に集まっている時、イエス様が弟子達の中央に現れたのです。トマスは常識ではあり得ないことを目の当たりにして、愕然としました。そして自分の中で常識がガタガタと崩れていくのを感じたのです。足は震え、頭は混乱し、その場から逃げ出したくなりました。しかしイエス様が、直ちに自分の方に向き直り、言われたのです。「あなたの指をここにつけて、わたしの手を見なさい。手を伸ばして、わたしのわきに差し入れなさい。信じない者にならないで、信じる者になりなさい。」この言葉を聞いた時、トマスはぎょっとし、「聞いていないはずのイエス様が、自分の声を聞いておられた！」と、その恐ろしさに背筋が凍り付きました。そして自分の不信仰を認めたのです。自我が砕かれました。そしてもうイエス様の傷跡に、指を差し入れなくても良いと思いました。しかし、イエス様は「あなたの指をここにつけなさい。」「手を伸ばして、わたしのわきに差し入れなさい。」と厳しく命じられたのです。トマスは泣きながら、イエス様が差し出された手の釘の穴に、恐る恐る自分の指を差し入れ、イエス様が自分の手を取って、ご自分の脇腹に導かれるままに、槍の傷跡を触りました。そして目に涙をためてイエス様の顔を仰ぎ、叫んだのです。「ああ、わが主よ。わが神よ。」そうしたらイエス様がトマスに言われました。「あなたはわたしを見たから信じたのですか。」トマスはこの御声に、「とにかく私を信じましたね。」という喜びを聞き取りました。

そしてイエス様は弟子たちを見渡して言われました。「見ずに信じる人々は幸いです。」イエス様は、これから生まれて来る多くの意固地な常識人が、疑い深いトマスの回心を知って、ご自分を信じるようになることを望まれたのです。それは「あなたがたが信じて、イエスの御名によっていのちを得」て「幸い」な人になるためです。わたしたちも永遠の命を得て幸いな人とならせていただきましょう。

　人知では到底はかり知ることのできない神の平安が、あなた方の心と思いとを、キリスト・イエスにあって守られますように。アーメン。

©2018 Rev. Manabu Wakabayashi