今日のできごと


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2017/10/7(土)



出雲弁の特徴

 1.出雲弁の3つの特徴

 藤岡大拙先生は、出雲弁のネイティブスピーカーです。
 発音も流暢で、言葉の意味もよく知っておられます。
 藤岡先生によると、出雲弁の特徴には3つあるということです。

 1.1 語彙が豊富

 ひとつは、語彙が豊富であるということで、
 特に形容詞や副詞が、豊富だそうです。
 およそ2500語の、出雲特有の単語があるといいます。

 特に他の地域の人にとって、意味の予想や想像が、
 ほとんどできない単語が多いという特徴を持っています。
 また、発音から予想されるのとまったく違う意味だったりします。

 「はいごん」や「ぼいちゃげる」や「がっしょ」などは
 まったく聞いただけでは、意味がわかりません。
 「なやみする」は「悩む」ではなく、「家を造作する」という意味です。

 1.2 発音が同じ行で変化する

 ふたつめは、50音の同じ行で、発音が変化します。
 「さ行」の場合、「さしすせそ」の「し」と「す」の明確な区別がありません。
 どちらも「すぃ」になりますので、「寿司」は「すぃすぃ」になります。

 濁音も同じで「ざじずぜぞ」の「じ」が「ずぃ」に変化するため
 「ざずぃずぃぜぞ」になり、この発音がいわゆるズーズー弁となるのです。
 夕方の挨拶「ばんじまして」も、発音から言うと「ばんずぃまして」になります。

 「じゅう」という発音がなく、「ずぃー」になります。
 この時、口の形を「い」の形のまま「ずー」と発音します。
 英語で言うと「Z」の発音に近いと思います。「15」は「ズィーゴ」になります。

 「み」が「め」になるので、「すずめ」も「しじみ」も同じ発音です。
 どちらも、「すぃずぃめ」になります。
 「う」が「お」になり、「い」が「え」になったりします。

 アクセントも、フラットなアクセントで「あかとんぼ」のように
 どこにもアクセントが付かないことが、多いようです。
 「古事記」も「乞食」と同じアクセントで、フラットに発音します。

 1.3 語り口が柔らかい

 石見弁は、思ったことを直接そのまま言うとのことですが、
 出雲弁は、思ったことを直接言わずに婉曲な言い方をするということです。
 ですから本当に思っていることを、知るのが大変だそうです。

 藤岡先生の見解では、大和朝廷に負けたことで対外的に門戸を閉ざすようになり
 なおかつ、米や海産物などの食糧が豊富で、自給自足が成立する社会だったため
 閉鎖社会が成立してしまい、住民が固定したため、

 一生そこに住み続けないといけないため、一度けんかをしてしまうと
 一生けんかが続いてしまうので、けんかができない社会になり、
 そのような語り方になったのではないかということでした。

 2.出雲弁特有の訛音の発音例

 法則としては、「さすぃすぃせそ」のように、2段目と3段目が同じ音になり
 3段目に小さい「い」すなわち「ぃ」をつけた音になるという法則のようです。
 「たつぃつぃてと」はまさにその法則になっています。

 な行の場合、「ぬぃ」は発音しにくいのか「の」や「ね」になったりします。
 は行の場合「ふぃ」ですが、日陰は「ふぃかげ」で「ふかげ」の発音に近く、
 風呂敷は「ふぃろしき」で「ひろしき」の発音に近くなります。

 ま行の場合も「むぃ」で、発音しにくいのか「む」が「み」や「も」に
 「み」が「め」になります。
 や行の場合は「ゆぃ」ですが、「い」や「え」になります。

 ら行の場合は「るぃ」ですが、「る」が「り」や「ろ」になります。
 また「り」は発音せず、単に伸ばすだけの「ー」になったりします。
 「る」も語尾にくると、「ー」になる場合があります。

No. 訛音 出雲弁の発音例
い→え 糸:えと 犬:えぬ 石:えすぃ 家:え 芋:えも 大根:だえこ
※例外 胃:い 胃だけは「え」と発音しない(Wi)
う→お 馬:おま 牛:おすぃ 兎:おさぎ 梅:おめ 歌:おた 浦:おら
瓜:おり 臼:おすぃ 嬉し:おれすぃ 噂:おわさ 生まれる:おまれる
し・す→すぃ 雀:すぃずぃめ 蜆:すぃずぃめ 寿司:すぃすぃ 墨:すぃめ 
ち・つ→つぃ 松江:まつぃえ 椿:つぃばき 蕾:つぃぼめ 不束:ふつぃつぃか
に→ね 鶏:ねわとり 荷物:ねもつ 銭:ぜね 庭:ねわ
に→の 田螺:たのすぃ ※田んぼにいるタニシ
ぬ→ね 糠:ねか 糠味噌:ねかめそ
ぬ→の 盗人:のすぃと 塗物:のりもの 手拭:てのぐえ 狸:たのき 
ひ→ふ 日陰:ふかげ 昼飯:ふるめすぃ 火箸:ふばすぃ 髭:ふげ
膝:ふざ 秘伝:ふでん 飛脚:ふきゃく 単衣:ふとえ
ふ→ひ 風呂敷:ひろすぃき 二つ:ひたつぃ
ぶ→び 蕪:かび 葡萄:びどお 藪:やび 豚:びた
み→め 水:めずぃ 道:めつぃ 蚯蚓:めめず 狼:おおかめ 
紅葉:もめずぃ 味噌:めそ
む→み・も 昔:みかすぃ、もかすぃ 氷室:ひもろ 麦飯:もぎめすぃ
娘:もすぃめ 息子:もすぃこ 胸:みなん 結ぶ:もすぃぶぃ
  蝮:まもすぃ
ゆ→い 湯殿:いどの 湯たんぽ:いたんぽ 郵便:いーぶぃん
ゆ→え 雪:えき 小指:こえび 眉:まえ
る→り・ろ 留守:りすぃ
り・る→ー 釣針:ちぃーばぁ 蛍:ほたぁ 猿:さぁ 煙管:きしぇー
釣鐘:つーがね
ん付加 蟻:ありんこ 蝶:ちょんちょ 牛蒡:ごんぼ 墓場:はかんば
貝殻:けんげら

 3.出雲弁特有の単語

No. 出雲弁 発音 意味
はいごん はいごん 大騒ぎ
ぼいちゃげる ぼいちゃげる 追いかける
がっしょ がっしょ 一生懸命
ひまぐらし ふまぐらし まぶしい
せぎわい せぎわい 時間がない
がしんけな がすぃんけな 貧相な
えでほる えでほる 嫁が無断で実家に帰る
なやみする なやみする 家を造作する
こらまたなんだら こらまたなんだら これはこれは
ばくらとする ばくらとすぃる ほっとする
おえなおえな おえなおえな わざわざ
じじらに ずぃずぃらに 絶え間なく
ぼやける ぼやける 蒸し暑くなる
つけごめ つぃけごめ 物をもらった時にその場でするお返し
ししし すぃすぃすぃ わらを円筒状に積み上げたもの
ただくち ただくつぃ 副食物を食事時以外につまみ食いすること
あおんだま あおんだま あおむけ
きびし きびすぃ いたって
のーて のーて 日陰地
くどまんど くどまんど しつこく
せつ せつぃ 運命
けんげら けんげら 貝殻
ぞーれる ぞーれる 家が荒れる
はいざん はいざん 二人以上の医者が同時に診察すること
ござなめ ござなめ 宴会で最後まで飲んでいる者
えきじ えきずぃ 惰性
たける たける 刺激臭が目や鼻にしみる
びがんな びがんな 足元の弱弱しい
さい さい つらら
ふてぶる ふてぶる ゆさぶる
ちっと ちっと いちばん
へたくなる へたくなる べったりと座り込む
ほねがかいい ほねがかいい 仕事が大儀になる
つぐなる つぃぐぃなる うずくまる
みりんぼ みりんぼ 物欲しがりや
てれぐれ てれぐぃれ 決まったことが時々変わる
むらさ むらさ にわか雨
もだえる もだえる あわてる
どける どける 畳やわらが腐ってボロボロになる
したえきな すぃたえきな 腰の低いおごり高ぶらない様子
しとな すぃとな 地味な
よじき よずぃき 寄り付き
おみける おみける 蒸し暑くなる
りんば りんば 釜のつば
かききり かききり 食事なしの雇人
なえくる なえくる ぐったりする
おんぼらと おんぽらと ほのぼのと温かい
ばんじまして ばんずぃますぃて 夕暮れ時だけの挨拶
きょーて きょーて 恐ろしい
きらためる きらためる ひとつひとつを吟味する
めんたし めんたすぃ ごめんなさい
よばる よばる 液体がすこしづつたれる
だんさん だんさん かかりつけ医
じんど ずぃんど 一番、最も
かたいけ かたいけ 血縁の薄い親戚
はげる はげる 穴に突っ込む
はがる はがる 靴にピッタリ足が入る
けうとし けうとすぃ 恐ろし気
ちょっこぉ ちょっこぉ ちょっと
だんだん だんだん ありがとう

 なぜ「だんだん」がありがとうなのか?
 天明(1781〜1789)頃の京都の遊里のあいさつ語から来ているそうです。
 「毎度おおきに、だんだんありがとうございます」の「だんだん」だそうです。

 「いつも 大いに いろいろと ありがとうございます」の
 「大いに」の「おおきに」が残ったのが関西弁で、
 「いろいろと」の「だんだん」が残ったのが出雲弁だそうです。

 4.出雲弁特有の助詞と助動詞

No. 出雲弁 意味 例文
えな ような 風邪ふえたようなえな気がすー
げな 第三者から聞いた だらじげな話だ
ごて ごと 家ごてに旗が立っちょる
さな ようだ 夜が明けたさな
さで ようで 叱られたさで、ほえとった
だか ればいいの? そこで何すーだかや?
だか の? おまえいつ行くだか?
だがね わね さしにさえて来ただがね
だがね ください だけん、買ーてごすだがね
だげで のようで そげだげで、わりしこだった
だった なかった(否定) 聞こえだった。物が足らだった。
だども だけれども まげな話だども、あら嘘だじ。
だもん だけれども 物もらっただもん、金払わなえけん
たら なやつ 横着たら
だら なのか? 本当だら嘘だらわからん
だらか いるのか? も、はじまちょーだらか
だらども かもしれませんが 忙しだらども手ごしてごえた
ちょらん していない なんだいしちょらん
ちょる している あのしはじゃじゃばっかー言っちょる
とね ないで 飯も食わんとね、寝てしまった
こね しないで 何だい手ごせすこね、遊んでしまった
とまっしゃい てしまいました 飼い猫が逃げたとまっしゃい
ともて と思って 雨がふーかともて、傘持って出かけたね、ふらだった
なえな のような 嘘なえな気がすー
なはー られる(敬語) だんさんが来なはーけん、
静かにしとーだじ
はなで みたいで も、済んだはなで、帰ってきた
やこ しあいこ 道で駆けやこしちょった
やんす ございます(敬語) ええさんでやんす(夜の挨拶)
らちゃ たちは わらちゃ、なにしとりゃ
子供らちゃ寝てしまった
んこに しないで 勉強せんこに遊んでばっかしだ


 聖書の中で発音について触れられている箇所としては、
 士師記12章が挙げられます。
 その人の発音で、敵かどうかを判断したという記事です。

 エフライム人が、エフタに言いがかりをつけ殺そうとしたとき、
 エフタはギレアドの人をすべて集めて、エフライムと戦い、
 ギレアドの人はエフライムを撃ち破りました。

 その時、エフライムから逃げてきた人々を見分けるために
 使った手段が、発音でした。「シイボレト」を正しく発音できず
 「シボレト」と言うならエフライム人だと見分けたのです。

 【今日の聖書】
 ギレアドはまた、エフライムへのヨルダンの渡し場を手中に収めた。
 エフライムを逃げ出した者が、「渡らせてほしい」と言って来ると、
 ギレアド人は、「あなたはエフライム人か」と尋ね、
 「そうではない」と答えると、「ではシイボレトと言ってみよ」と言い、
 その人が正しく発音できず、「シボレト」と言うと、直ちに捕らえ、
 そのヨルダンの渡し場で亡き者にした。
 そのときエフライム人四万二千人が倒された。
 士師記 12章5〜6節


※出雲時間について
 8時のさたというと、8時半ごろ集まって来て世間話をして9時から開始
※出雲弁サイト
 出 雲 弁 の 泉
 
 

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