まず十四章を見よ。その全体が食物問題である。これ小問題ではあるが、キリスト的愛の問題に關係するところ大なる點においては決して小問題ではない。パウロがこの問題をキリスト的愛の高處に立ちて解決したるはすこぶる注意すべき點であるといわねばならぬ。次の十五章前半は、十四章と同じ�拐~の続けるものであり、その後半は、パウロのローマ�ﾍ会に對する態度、および�ｉｹ宣傳の上の覺悟の披瀝（ひれき）のごときものである。そして十六章に入つては全く個人的のあいさつとなる。ここにパウロは幾人かの友人についてしるし、その一人一人について簡潔適切なる紹介をなしてゐる。ここに彼の友人觀を知ることができるのである。彼のごとき大宗�ﾍ家がいかなる友を持つていたか、またその友について、いかなるこまかき、また良き見方をなしていたか、その一つ一つを見て、偉大なる胸中に潜める婦人のごとく繊細（せんさい）優雅なる愛をうかがうことができる。まことに注意すべき處である。そして十六章は最後に至つて二十五節以下の壯大なる贊美となつて、ここにいよいよこの大書簡は結了するのである。

　キリストは�~である。また人である。彼はこの世の聖人のごとく、�~らしき人、または人にして�~のごときものではない。彼には二つの性質があつた。いわく�~性、いわく人性。すなわち彼は全き�~であつてまた全き人であつた。クリスチャンはもちろん純然たる人であるが、またキリストの宿るところとなつたものである。ゆえに、ただの人とはちがう。キリストにありて「みな新しく」なりし者である。彼の中にはキリストがある。ゆえに彼に�~心（かみごころ）があると共に人心がある。すぐれたるクリスチャンは、強く�~らしく（intensely divine）あると共に、また強く人らしく（intensely human)ある。努力修養によつて人らしきところを殺して、いわゆる聖人となつたものではない。特別の修養工夫によつてこの世を超越し人間性を脱却するということが佛�ﾍの理想であるとするならば、この點においてキリスト�ﾍと佛�ﾍとの相違ははなはだ著しいのである。特別に聖き生活に入る事、特別に聖き事に從う事、すなわち形の上の聖さは、キリスト�ﾍにおいては少しも要求されていない。クリスチャンは、形においては、この世の人と何ら異なるを要さない。心もまた人らしくあつてよいのである。ただその人らしきが�~の靈によつて深められて、強くまた深く人らしくなるを要するのである。パウロのごときは偉大なるクリスチャンなりしゆえ、その�~らしき方面も人らしき方面も、共に深刻強烈であつたのである。ロマ書十四章以下の三章は、彼のこの人間的方面の發露として、限りなき興趣が存するのである。

　人に缺くべからざるはこの二つの方面である。Divinity（�~らしき方面）とHumanity（人らしき方面、これを人間味と譯すべきか）。天に關しての熱心と地に關しての熱心。この二つが互いに相補つて眞の人が生まれる。一方に偏するときは ── 乙の方に偏するのはもちろん、たとえ甲の方に偏するにても ── その人は健全を失つた人である。わが日本民族のごときは、人間味に豐かにして�~的興味のはなはだしく缺けたる民である。ゆえに、人として健全を缺くのみならず、その人間味さえもまたはなはだしく淺薄に流れやすいのである。見よ、その國語は情を表わすうるわしき語に富めども、�~聖厳粛なる事をいいあらわす語にはなはだ乏しきことを。人はこの兩方面を具備して初めて眞の人たるのである。パウロが、その宗�ﾍ的偉大のゆえをもつて、人間味の缺乏せる者のごとく思わるるは、大なる誤解である。彼が宗�ﾍ的に偉大なる事その事が、彼の人間的にもまた偉大なる事を示すのである。何となれば、およそ人間味において缺けたる者が宗�ﾍ的に偉大なるはずはないからである。

　ロマ書は偉大なる�~學書と稱せらる。そして實に偉大なる�~學書である。個人の救いと人類の救いと實践道�ｺとに關する完全なる�ﾍえの提唱である。とうていこれ以上の�~學書がこの世に現わるることはない。ロマ書以前にロマ書なく、ロマ書以後にロマ書なきものである。しかしながら、この書がもし�~學の提示のみをもつて終わるならば、あまりに荘高厳粛に過ぎて、人をして近づくを得ざらしむるものとなるに相違ない。しかるにここに、十四、十五、十六章がある。これは彼とローマの信者との個人的關係を示すものにして、彼の人間味のうるわしさが遺憾（いかん）なく表われてゐるのである。これあるがために、ロマ書がわれらになつかしき書となり、またパウロ彼自身が親しき人となるのである。十四章以下は、この意味において貴重なる部分であると共に、その内容の傳うる�ﾍ訓から見るも、またすこぶる貴重なる處である。われらはこれを輕視してはならぬ。

　十四章は、第一節においてまずいう、「信仰の弱きを受けよ。されど、その思うところをなじるなかれ」と。これ全章の�拐~である。信仰上の根本問題については争わねばならない。しかし生活上の小問題については他の信者の思うところをなじつてはならない。彼をしてその信ずるままにおこなわしめなくてはならない。そして彼をさばかずして、兄弟の一人として愛をもつて受けねばならない。人の小問題にまで干渉して、彼をしてわれの意に從わしめんとしてはならない。人おのおの見るところあり。しかるがゆえに、互いに人の意（おもい）を尊重し、その自由を認容し、ひろき愛の心をもつて、互いに相受くることを心がけねばならぬ。

　「ある人はすべての物を食らうべしと信じ、ある人は弱くして、ただ野菜を食らえり」と第二節にある。ここに、信者に、肉食をなす者と、これを避ける者との二種類があつたのである。そして後者が肉食を避けた理由は、今日の菜食主義者とは目的を異にしていた。當時、ギリシャ、ローマ等の諸都市においては、偶像の宮にささげし肉類を商人に拂い下げ、商人はこれを他の肉とまじえて市（いち）に売る風習があつた。從つて、肉食する時は、偶像にささげし肉をも食するおそれがあつた。ここにおいてか當然信者の間に二種類の人が出でた。いわゆる「信仰の強き者」は、偶像にさきげし肉を食うことを少しもおそれなかつた。彼らはイエスの語を引用して（マタイ傳十五・十六 〜 十八）、口より出づるものは人を汚せど、口より入るものは毫も人を汚さずと主張したであろう。彼らは形式の事に拘泥（こうでい）しない強い信仰と強い人格の處有者であつた。パウロ自身のごときはもちろんこれに屬する人であつた。しかるに、いわゆる「信仰の弱き者」があつた。彼らは愼み深い人か、あるいは氣の小さい人であつた。エホバ�~を信ずる以上、偶像にささげし物を食するは信仰的に不純であると考えた。これを不徹底といえばいえる。けれども人にはおのおの生來の性向や、過去の境遇や、遺傳がある。すべての人がいわゆる強き信者となることはできない。弱き信者の思うところにもまた一理ある。その良心の鋭敏なると、ひとえに敬虔（けいけん）ならんと努むる心は、また大いに採るべきである。

　また日を守る守らぬの問題があつた。「ある人はこの日をかの日にまされりとし、ある人はいずれの日もみな同じとす」（五）とある。「あるいは祭、あるいは新月、あるいは安息日の事」（コロサイ章二・十六）につき、古き律法をそのままに守る人があつた。彼らは謹みて日を守らずしては�~のみ心にそむくと思いて日を守つたのである。しかるにある人にとつてはすべての日が同じであつた。彼らは、ある日には特別なるある奉仕（つとめ）をするというような形式主義を脱していた。すべての日において同樣に�~に仕うるをもつて、必要かつ充分であるとなした。前者はいわゆる弱き信者、後者はいわゆる強き信者であつた。

　右のごとく、強き信者があり、また弱き信者があつた。かくて二種類の人のあることは、べつに困つた事ではない。困つたことは、兩者の間がとかく愛の一致を缺いた事であつた。強き者は弱き者を小心者としてあざけりて、わざとその前に食するような事をなし、弱き者は強き者を不敬虔不謹愼となして、行動を共にするを恥じ、その間にいとうべき乖離（かいり）が起こりつつある状況においてあつた。その暗雲はたぶんまだ色濃くはなかつたであろう。それでも暗い雲の起こつていたことは事實である。

　そしてパウロは勧めていうのである、この小問題の不一致を問題とせずして、愛において一致せよ。互いにさばかずまた輕しめず、小問題なるがゆえに相譲り、キリストの愛において一つたれと。ことに強き信者に向かつて彼は特にその注意を喚起（かんき）するのである。強き信者にとつては、食物や日の問題は自由の問題である。どうでもよい問題である。肉は食してもよい。ゆえに、ある理由があれば食さなくてもよい。彼らにおいては、どうにでもできる事である。ゆえに、もし肉を食する事が愛の道にかなわぬ場合は、肉を食すべきでない。「肉を食らい酒を飲む、何事によらずなんじの兄弟を倒し、あるいはつまずかせ、あるいは弱くするは、よろしからざるなり」（二一）とあるのがパウロの意（こころ）である。食物問題は小問題である。しかし愛は大問題である。小問題のために大問題を犧牲にしてはならぬ。小問題において自分の意地を通すため、大問題たる愛の道を破つてはならぬ。日は守るもよし、守らぬもよし。食うもよし、食わぬもよし。しかし愛はぜひともおこなわねばならぬことである。ゆえに愛の道にかなうように日を守るべし、また肉を禁ずべしである。兄弟を愛するがゆえに、日を守り肉を禁ずべしである。「�~の國は飲食にあらず。ただ義と和と聖靈によれる喜びにあり」（十七）である。ゆえに飲食問題を主要問題として争うなく、かかる小問題は愛のゆえに譲りて、ひとえに義と和と喜びとの實現を計るべきであると。かくパウロは勧め誡めるのである。まことに小問題のごとくであるが、その解決いかんは決して小問題ではない。事は大問題に波及し來たるのである。ゆえに小問題が大問題となるのである。

　觀劇いかんの問題がある。禁酒禁煙等の問題がある。觀劇が絶對に惡いと定めることはできない。また小量の飲酒喫煙は、場合によつてはかえつて保健の道であるかも知れない。これらをおこなつた者は罪惡をおこなつた者であるということはできない。しかしながら、これを禁ぜる兄弟の前にてことさらにこれを用うるごときは、愛の道にかなわない。かくして人をつまずかせば、これ明白に罪である。ことに信者にして飲酒喫煙するごときは、同信の青年をつまずかせやすきことであり、また未信者をして�ｉｹを誤解せしめやすきことである。共に愛の道にかなわない。ゆえに、すべてこの種の實際問題においては、いずれでもよきものゆえ、愛の道にかなうようにおこのうべきである。

　故（もと）の札幌農學校�ﾍ誡ウィリアム・S・クラークは、日本に來る際、健康維持の必要上、四ダースの純良ブランデーを携え來たつた。これ酔うて樂しむためにあらず、時々小量づつ用いて、疲勞を癒やし健康を維持せんがためであつた。しかるに、品川より小樽への船中、飲酒がいかに日本人 − ことに日本の青年を毒しつつあるかを實見して、大いに感ずるところあり、日本を救うために禁酒奨励の必要を感じ、札幌に着くや、まずそのブランデーを捨てて、みずから禁酒の實をなすと共に、禁酒会を起こし、もつて禁酒の必要を熱心宣傳するところあつた。この一事によりて、まず禁酒の美風がわが國に入り、もつて今日盛んなる禁酒事業の一源泉となつたのである。いずれでもよき事であるゆえに愛の標準に照らして定むるとは、正にかくのごときをいうのである。

　いわゆる信仰の強き者は、小問題においては、弱き者に譲るの心得を要する。これ愛をして全からしむる道である。また弱き者は強き者をさばいてはならぬ。「食らわざる者は食らう者を審判（さばき）するなかれ」と三節にあり、なお次の四節においては、強き語をもつてこれを誡めてゐる。また弱き者は強き者に向かつて愛の要求をなしてはならぬ。愛の不足を責め、なお多からんことを要求するごときは、卑劣の行爲である。強き者は弱き者を許して、愛のゆえに彼を輕しむるなかれ。弱き者は強き者の行爲に對して、愛のゆえにさばかざれ。かくせば、兩者の間に差別と乖離（かいり）失（う）せ、キリストにありて一体たる兄弟姉妹として、うるわしき愛の団結を続け得るのである。

　信仰の根本問題においては強烈無比、一歩も譲らざりし剛漢パウロが、愛についておもんばかるところのいかに周密繊細（せんさい）なりしかを見よ。人生の實際問題についての彼の解決の、いかにキリスト的愛に根ざすかを見よ。彼はその確信において岩のごとく堅く、その感情において婦人のごとく細かく行きとどいていた。彼は強く�~的なりしと共にまた強く人的であつた。第三の天に携え行かれて、人の語るまじきことばを聞くほどに、宗�ﾍ的に偉大なりし彼は、一人の弱き信者に對しても、妻が夫を思うごとき熱愛をもつてするほどに、人間的であつた。そして多くの信仰の偉人はみなそうであつた。これが靈的偉人の靈的偉人たる特色である。靈的に大なると共に人間味に富めること、弱き兄弟のために自己の自由を制限せんとする心やり、これが眞の信者に存するものである。われらまた深くパウロのこの心に汲（く）み、強く宗�ﾍ的たると共にまた強く人間的なる、情味のゆたかなる、愛において繊細なる人とならねばならない。

第五十六講　約　説

小問題の解決

　

　ロマ書は第十三章をもつて終わつたものと見ることができる。人の救わるるは何によるか？信仰による。ユダヤ人の多數の救われざるは何ゆえか？萬民が救われんがためである。キリスト�ﾍ道�ｺの根底、件質、實行、奨励、これらの諸問題に徹底的解決を供して、パウロはここに筆をおいてよいのである。十三章十四節に次ぐに十五章三十三節……「平和の�~、なんじらすべての人と共にあらんことを願う。アアメン」……の語をもつてこの書を終わつてよいのである。

　しかしながら、パウロにまだいわんと欲することばがあつた。それは、�ｉｹの一般的眞理を離れて、ローマにおける信者の身の上にかかわる事柄であつた。すなわち�ﾍ理問題、道�ｺ問題、世界問題を離れて、信者の一身問題であつた。パウロは、この問題について一言せずして、この大書簡を終わることができなかつた。

　何を食うべきか、いかにして聖日を守るべきか、パウロ自身の傳道旅行の計畫、ローマにおける諸友人に對するあいさつ、信者相互の關係、彼らとパウロとの關係……問題は個人的である。小問題である。異邦人の使徒たるの使命を帶びたるパウロは、かかる問題に携わるの必要はないではないかと、この世の人らはかくのごとくに思う。しかしながらキリストの心を持てる信者はそう思わないのである。

　キリストは�~人 God-Manであつた。�~と人との兩性を一体において持つ者であつた。信者もまたそうである。信者はこの世を全然超越したる、いわゆる聖人ではない。彼に�~らしきところがある。同時にまた彼は人らしきところを失わない。彼の最大の心がかりはもちろん天につける事である。されども彼は地につける事を忘れない。クリスチャンは intensely divine（深刻に�~らしく）たらんと欲すると同時にまた intensely human（深刻に人らしく）である。天に關し最大の興味をいだくに至りし彼は、地に關し最も熱心なる者である。ヒューマニティーは、地と人とに關する熱心である。これを人間味と譯すべきであると思う。Divinityと Humanity �~にかかわる事と人にかかわる事、�~學と文學、完全なる人に必ずこの兩方面がある。

　ロマ書は最大の�~學書である。世にありし、またあらんとするすべての�~學の模型である。しかしながら�~學のみでない。これに大なる人間味が加わりて、乾燥たりやすき�~學をして血あり涙あるものたらしむ。われらは、第一章において、同信の友に對するパウロの心情の一斑をうかがつた。「兄弟よ、われしばしば志を立て、なんじらにいたらんとせしかども、今に至りてなお妨げらる。われ、なんじらがこの事を知らざるをこのまず」（一・十三）と。これは�~學ではない。友情である。しかして一章十七節以下十三章末節に至るまで大�~學論を続け來たつて、パウロはまたここに彼の友人に向かつて彼の心情を吐露せんと欲するのである。かくのごとにくして、十四章以下十六章まではロマ書の人間部であつて、興味の最も多き部分である。�~學を本体として見る時は、その付屬物たるにすぎずといえども、パウロの何びとなるか、クリスチャンの何者なるかをうかがうためには、必要缺くべからざる部分である。

　「ある人はすべての物を食ろうべしと信じ、ある人は弱くして、ただ野菜を食らえり」。「ある人は、この日をかの日にまされりとし、ある人は、いずれの日もみな同じとす」。問題は小問題である。どうでもよい問題である。しかしながら、愛の立場より見て、決して小問題でない。これを解決するに、キリストによりて�~より來たる愛のすべての力と判斷力とが要（い）る。まず第一に知るべきは、問題に必要と不必要との別あることである。前者はあくまで争うべし。後者は寛容すべし。人の義とせらるるは律法によらず信仰によるとは肝要問題である。パウロは、これがためには、ペテロを面責し、ガラテヤ�ﾍ会との友誼的（ゆうぎてき）關係を賭（と）して彼の主張を維持した。しかしながら「あるいは飲むこと、あるいは食らうこと、あるいは祭、あるいは新月、あるいは安息日のことにより、人をしてなんじらを議せしむることなかれ」（コロサイ書二・十六）といいて、不必要問題については自由寛容不干渉を主張した。これは、なすも可なり、なさざるも可なりの問題である。生命にかかわる問題にあらず。各人、自由選択の問題である。パウロの著しき常識は、かかる場合において現われたのである。

　「どうでもよい問題である。ゆえに愛のために譲らん」とは、パウロ第二の�ﾍ訓（おしえ）である。彼はいう、われは、主イエスによりて、すべてのもの、きよからざるなきを知りまた信ず。されども、兄弟の内に、もしある物をきよからずと思う者あらば、その物はその人にとりてはきよからざる物であれば、われより進んで彼の面前にこれを食うは、彼をして憂えしむるの道なるがゆえに、われは愛の道にかなわんがためにこれを食わず。彼もまた主がその血をもつてあがないたまいし者であれば、われは食物のゆえに彼を滅ぼさざらんと努む。われは愛のゆえにわが自由に制限を加う。これすなわち愛の道なりと（十四 〜 十五）。無益に兄弟の感情を害する事、これ信者の大いに愼むべき事である。小問題である。ゆえに彼をしてまずこれを放棄せしめんとしない。われより進んで彼の嗜好（テースト）に從わんとする。偉大なるパウロよ、彼に繊美（デリケート）なる貴婦人の注意があつた。岩のごとくに堅き彼に、その挟間（はざま）に咲く百合花（ゆり）のごとき美と香（かおり）とがあつた。「�~の國は、食らう事または飲む事にあらず。ただ義と平和と聖靈による歡喜にあり」（十七）。�~の國は肉の事にあらず、靈の事なり。「イエスいいけるは、すべて口に入るものは腹を通りて厠（かわや）に落つ。口より出づるものは心より出づ。これ人を汚すものなり」（マタイ傳十五・十六 〜 十八）とあるがごとし。何を食おうが（ロマ書のこの場合においては、一度偶像に供えられし肉をさすがごとし）、何を飲もうが、その事は人を汚さない。クリスチャンにはいわゆる「汚らわしき物」はない。しかしながら、心より口を通して出づるところのもの、すなわち無念、僞證、そしり、これらはまことに人を汚すものである（同十九 〜 二〇）。されば信者は肉の事について争つてはならない。靈の事は大問題である。肉の事は小問題である。小問題に熱心になりて大問題を忘れてはならない。