ロマ書の研究第48講

　かく、その書簡の前半において福音的敎義を説き、後半において實践道德を説くはロマ書のみに限らない。パウロの他の書簡においてもこれがある。その最も鮮明なのは、ロマ書のほかエペソ書である。この書は、第三章までにおいて、信仰に關する深き敎義を説き、第四章よりは「されば、主にありて囚人となれるわれ、なんじらに勧む。なんじら召されし召しにかないておこなわんことを」と説きはじめて、もっぱら實践道德を説明してゐる。コロサイ書もこの點がかなり明瞭である。一、二章において、含蓄豐かなる敎義が説かれしのち、第三章よりは、「すでになんじら、キリストと共によみがえりたれば、天にあるものを求むべし」と説き出して、もっぱら道德的の注意が與えられてゐる。その他、ガラテヤ書は第五章一節より、テサロニケ前書は四章一節より、同後者は三章六節より、いずれも實践道德に入つてゐる。パウロの書簡の半數がこの特徴をになつてゐることは、注意すべき一事である。

　普通の道をもつてすれば、まず人を敎うるには道德を説くべきである。これ解しやすきのみならず、實際生活上、主たる注意を行爲に置くは當然であるからである。しかるにパウロは何ゆえ、解しがたくしてかつ實際生活には縁遠しと思わるる敎義－多くの人々に神秘的といわるるものを第一に力説（りきせつ）して、しかるのち、より解しやすくしてより緊切と思わるる道德の事を説くのであるか。これ一つの疑問である。しかしながら、パウロをもつて見れば、敎義は源にして道德は末である。敎義は根幹にして道德は花葉である。義とせらるる事といい、聖めらるる事といい、救わるる事といい、また人類救拯（きゅうしょう）の次第（しだい）といい、これパウロにとつては人生の第一問題である。神と人との關係の根本をなす問題である。ゆえに、これが解明に多くの文字を費やして、しかるのち初めて道德倫理の問題に入るのである。普通の人は考える、世には實際問題が多い、社会國家人類に關する切實緊要なる問題が山のごとくある、これらの解決のために、人は今や日もまた足らざる状態にある、何を苦しんでか神人の關係などいう問題に携わらんと。しかるにパウロにとつては神人關係の問題が人生の第一問題である。これさえ解けば、他のすべての難問題と稱せらるるもののごときは自然と解け去るというのである。

　根なくして、葉の茂り花の開くはずがない。しかるにこの世の人らは営々としてこの不可能事に從事してゐる。さりながら敎義は人生の第一問題の解明である。神と人との關係がまず義（ただ）しくされなくては、他のすべての事は義しくされない。キリスト敎道義はキリスト敎敎義を根幹として立つ花葉である。ゆえにこそ、根幹より養汁を受けて榮ゆるのである。根底なくしてただひとり立つところの倫理道德は、あたかも瓶に植えし花のごとく、しぼみ果つるほかない。この點において、キリスト敎道德は普通の道德と根本的に相違してゐる。自己の義とせらるる事、聖めらるる事、救わるる事の奥義を學び、進んで全世界に關する聖圖の秘義を學びて、歡喜と希望の歌が高く揚がる－しかるのち實際道德に入るのである。われら、心の根本に生命を供給せられずば、いかに傑秀なる道德といえども、これを實行する道がない。人生の根本問題が解決され、罪の苦悶がその根底より癒やされ、神の前に義とせらるるに至り、榮化の聖望に心おどりて歡喜と平和わが全身をうるおすに至るときは、心はおのずから生命と力に滿ちて、道德は求めずしておこなわれるのである。これ道德的生活を實現する最上の道である。ゆえに、道德の前に敎義あり敎義の後に道德あるは、少しも怪しむに足らざる當然のことである。

　キリスト敎道德といえば大問題なるごとく思われ、これについて大部の著述をなす學者があるほどである。いかようにもそれを精密に論ずることはできるであろう。しかしロマ書の十二章、十三章をもつてキリスト敎道德の大網はほぼ盡きてゐるということができる。人の人に對する務め、人の社会國家に對する務め等、各方面にわたりて精細に説明されてゐる。人生に必要な倫理道德はほぼ網羅されてゐるということができる。ゆえに一字一句に注意してていねいに研究するときは、われらキリスト信徒の日常生活の完全なる指針となるのである。

　第一に立つは「されば」である（原文においては、第一に「勧む」の語があり、次に「されば」があるが、これはこの文字の性質上しかるのであつて、意味の關係においてはもちろん「されば」が第一に立つのである。）この「されば」は何を受けての語であるかは一問題とされてゐる。マイヤーのごときは、十一章三十五、六節を受けたのであると主張する。しかしながら多くの學者は、この語をもつて、一章十七節以下の既説全部を受けての語であると見てゐる。この語は、ロマ書の敎義部と道德部の間に立つところの「されば」である。ゆえに敎義部の全体を受けての語であると見るが最上の見方と思う。すなわち「なんじら、キリストによりて義とせられ、神と新しき關係に入らしめられたれば」の意である（サンデー）。義とせられ、聖められ、救いの希望を持たせられたれば－－かく數々の大なる惠みに接したれば－－いいがたき喜びと安きを與えられたれば…という意である。かく「されば」をもつて呼び起こさるる道德の勧めである。ただなすべし、なすべからずの誡めではない。充分の根底ありて、おのずから現われねばならぬ勧めである。次の第二節以下十五章の終わりまで、説くところ多岐にわたつてゐるが、いずれの誡めといえども、その前にこの「されば」を冠するところの誡めである。このごとき意味の「されば」を冠する道德にして初めて道德としての値がある。また實行せられ得る。すなわち充分なる心靈的根底と生命の源泉とを有するところの道德である。ロマ書十二章以後のキリスト敎道德を學ぶにあたつて、われらの常に心得おくべきはこの「されば」である。

　「なんじらに勧む、兄弟よ」という。「兄弟よ」とは、パウロが、何か重大な事、意味の深い事、自己の至情などを改まつていおうとする前に發する慣用の語である。たとえば十章一節に「兄弟よ、われ心に願うところと神に祈るところは、イスラエルの救われんことなり」とあるごとき、またコリント前書十二章一節に「兄弟よ、靈のたまものについては、われ、なんじらが知らざるを好まず」とあるごときを見よ。情のこもつた語、兄弟が兄弟に對していう語である。パウロはここに兄弟の態度をもつて、親しみをローマの信徒に向かつて注ぎつつ、暖かき心をもつて、道德的の勧めをなさんとするのである。わずかに一語を加えただけであるが、その中に筆者パウロの當時の心構えが充分に見える。そして偉大なれども繊細なりし彼の心を、われらはここに見るのである。

　「勧む」という。「命ず」ではない。「モーセは命じ、パウロは勧める」とベンゲルはいう。モーセ律は、権威をもつてする命令である。そしてこれをおこなえば幸福來たり、これを破れば刑罰臨むという。すなわちモーセ律は幸福の約束と刑罰の威嚇とをもつてする命令である。しかるに今や時來たつて福音の時代となつた。まず與えらるるは恩惠である。しかる後「されば……勧む」である。道德的命令を新たに課そうとするのではない。恩惠に浴して感激する結果、當然あるべき事を、念のために勧めるのである。勧めなくても、讀者の當然實行すべき事ではあるが、あるいは忘るる者もあろうかとの心づかいより、改めて勧めるのである。ゆえに自然に起こるべき事をひき起こすだけのことである。ゆえに少しも命令として威嚇的に臨む必要はない。ただ勧めただけで充分である。

　「神のもろもろのあわれみをもて」勧めるという。第十一章までにおいて説くところ、みな神の「もろもろのあわれみ」である。ことに一章～八章における救いの本義は徹頭徹尾神のあわれみである。そこに著しきは、人の罪と神の愛との對照である。人にはただ罪の深きあるのみにて、何の功なく、ただ信仰によつて義とせられ、聖められ、救わるという神のあわれみである。この神のあわれみをもてパウロは獻身をすすめるというのである。あわれみに感激しておのずからなすに至る獻身を、念のためにパウロはなお勧めるのである。「神のあわれみにあやまたず心動かさるる者は、そのすべての聖旨に從うに至る」とベンゲルのいえるに注意せよ。

　神のもろもろのあわれみをもてパウロは何を勧めるのか。いわく「その身をささげよ」である。パウロがここに、その身（体）をささげよとのみいいて、全身全靈をささげよとも、なんじ自身をささげよともいわなかつたことについては種々の説がある。しかしながら、その身すなわち肉体をささげよと明示してある上は、それが肉体的獻身を意味することはもちろんである。パウロは何ゆえこの事に重きを置いたのであるか。彼は第二節において「心をかえて新たにせよ」と勧めてゐるゆえ、第一節にはもっぱら体のことをいうたのであろう。そもそも人の肉体なるものは、人間が事をおこなう道具である。これをもつて、人は惡をもなしまた善をもなす。これをサタンの誘うままに濫用し惡用するが世の常である。その最もはなはだしき例はすでに一章末段にしるされた。この惡用されやすき、また罪の機關となり得る肉体を、神にささげて、彼のために用うるは、心をきよむると共にまた肉体を聖むる道である。神のために、この肉体－－この頭、手、足を用うるが、ここにパウロのいう獻身である。その身をささげよとは、卑近なるがごとくにして實は深き勧めである。

　「神の心にかなう聖き生ける供え物として」ささげよである。供え物とは、もちろんユダヤにあつては犧牲（いけにえ）として祭壇に供うる物の意である。ユダヤにはエホバを祭る數種の祭がある。幼きよりこれらの諸祭に親しみいたるパウロは、きわめて自然に「供え物としてささげよ」との言を發したのであろう（自國の祭に對する一種の親しみをもつて）。燔祭（はんさい）は前であつて酬恩祭は後である。共に犧牲をささげる祭であるが、甲は罪のため、乙は感謝のためである。しかして信者の場合においては、キリストはわれらに代わりて、「世の罪を負う神の小羊」として、みずから燔祭の壇におのれを滅ぼせしゆえ、われらの燔祭はすでに終わりて、今や感謝を表する酬恩祭をささぐべき時となつたのである。しかしながら今や牛や羊をささぐるは神の心にかなうところではない。今ささぐべき犧牲は自己の肉体である。聖き生ける供え物である。死せる牛や羊は今や供え物たる價をもたない。生けるわが体を全部－その肢体と共に全部－ささげてしまうこと、これ「神の心にかなう」供え物である。これをわれらは感謝の意味において、恩惠に酬（むく）ゆる意味においてささぐべきである。そして神の聖きみわざのためにわが体を全部用うべきである。

　パウロは右のごとく全き獻身をすすめてのち「これ、なすべきの祭なり」と付記した。この獻身はクリスチャンとして當然なすべきの祭であるという意味である。「なすべき」の原語を λογικοs（ロギコス）という。これは合理的と譯するが普通ではあるが（英語 rational）、また靈的と譯することもできる（英語 spiritual）。合理的と見れば、以上のごとき恩惠を受けたるクリスチャンがその身をささぐるは當然の祭であるという意になる。實に理にかなつた、無理のない、當然の獻身であるというのである。これ普通の見方である。そしてこの見方には何らの故障もなくして、文字上、意味上、自然にして無難なる見方である。しかしまた靈的と見る方にも捨てがたき點がある。同一の文字がペテロ前書二章二節に用いてあつて、「靈の眞の乳」改譯聖書－大正譯）と譯してある。（現行譯聖書に「心を養う」とあるは、やや意譯に過ぎてゐる）。また同じ二章五節には「イエス・キリストによりて、神に喜ばるる靈の供え物をささぐべし」とある。この方は別の文字を用いてはあるが、この節の意味がロマ書十二章一節と酷似（こくじ）せるは見のがしがたき點である。あるいはパウロは「これ靈的の祭なり」といいて、ユダヤ諸祭の物質的なるに對比せしめたのかも知れぬ。ことにこのころ、民と祭司との堕落のために、ユダヤ諸祭はその美しき意味を忘れられて、もっぱら物質的、形式的の祭と化し去つていたのであるゆえ、パウロはことに力をこめて靈的の祭なりというたのかも知れない。いずれに定まつても、その主意は同一である。

　クリスチャンにもまた祭がある。それはすでに形式化したるユダヤの諸祭儀のごときものではない。また異邦におこなわるるところの、かの俗の俗たる祭の類ではない。そしてまた日を定めてある一日または數日をのみ神のために用うる祭ではない。クリスチャンの祭とは、その當然なすべき祭であり、また靈的の祭である。それはその身を「神の心にかなう、聖き生ける供え物としてささ」ぐるところの祭である。一たびその身をささげて、日々に連続してその身をささげつつ行く祭である。別の語をもつていえば、信者はその生涯全部が祭である。彼にはこの世のいわゆる祭はない。けれども祭が全くないというは誤つてゐる。いな、祭を最も多く営む者は彼である。何となれば、彼は毎日毎日祭をするからである。いな、その全生涯が祭の連続であるからである。ゆえに、われらは他に特別の祭をする要がないのである。

　以上をもつて、十二章一節の解を終わる。まことに右のごときがキリスト敎道德である。キリスト敎道德は全き獻身をまず第一とする。それよりすべて行爲の細末にわたるのである。しかし、獻身というも、單なる命令ではない。まず神の恩惠に豐かに浴し、人生の根本問題を解かれて、歡喜滿悦のあまり當然なし得る獻身のすすめである。かくして深められたる心より自發的に起こるところの愛のおこないと生涯である。何の根底なき道德ではない。根底を明らかにせられしゆえ合理的になし得るところの道德である。理にかなつて心からおこない得る道德である。賦課ではない。心からなし得る獻身、喜んでなし縛る獻身、およびその結果としての行爲である。これがキリスト敎道德である。わずかに一節の中に、キリスト敎道德の大体が説かれたのである。

　第十二章をもつてロマ書の第三区に入る。第二章より第十一章までは二区に分かれてキリスト敎の敎義を論じ、第十二章より第十五章まではその道德を述ぶ。敎義が先にして道德が後である。敎義に根底を置かざる道德は弱くして消滅しやすくある。敎義に十一章を與え道德に四章を配りしパウロのキリスト敎に注意すべし。敎義七分、道德三分、ゆえにその道德は堅くして動かないのである。

　「されば兄弟よ、われ、神のもろもろのあわれみをもてなんじらに勧む。その身を神の意（こころ）にかなう聖き生ける供え物として神にささげよ。これ當然の祭なり」と。一言一句、強い深いことばである。「されば」「このゆえに」ギリシャ語の ουν 英語の therefore である。第一章十七節以下、第十一章までを受けていうのである。「事實かくのごとくであれば」、なんじらはかくのごとくにして義とせられ、かくのごとくにしてきよめられ、かくのごとくにして救いを完成（まっとう）せらるるのであれば、なんじらはその惠みに酬（むく）いんがために…である。短い接続詞であるが、意味の重いことばである。道德を敎義に結び付けることばである。敎義の坂を登りつめて、後を顧みて發することばである。「このゆえに」、ただの道德ではない。理由のある道德である。同じ事をエペソ書において見る。その前の三章が敎義の陳述であつて、後の三章が道德の唱道である。しかしてその道德が同じことばをもつて始まつてゐる」。「されば、主にありて囚人となれるわれ、なんじらに勧む……」（エペソ書三・一）と。同じ事をまたコロサイ書三章五節において見る。「されば」「このゆえに」、深い敎義の上に立つ道德である。意味の深い「されば」である。

　「われ、なんじらに勧む」。「命ず」とはいわない、「勧む」という。ギリシャ語の παρακαλω 英語の exhort である。パウロはここにキリスト敎道德を命令として強（し）いんとしていない。勧告（すすめ）として傳えんとしてゐる。兄弟の自由意志に訴えんとしてゐる。「勧む」は、無きものをもつて臨むのではない。すでにあるものを喚起（よびおこ）さんとするのである。パウロは敎義を説いて、道德は信者の内にすでにあるものと假定してゐるのである。あるいは説くの必要なからんも、説くは害なくして益ありとの態度である。道德を見ること、いたつて輕くある。道德を敎義の必然的結果と見るからである。キリスト敎は律法でなくして福音である。パウロはここにモーセの律法を繰り返しつつあるのではない。キリストの恩惠の福音を述べつつある。ゆえに道德を説くにあたつても「兄弟よ、われ、なんじらに勧む」というのである。

　「神のもろもろのあわれみをもて（によりて）」。「あわれみ」ギリシャ語のオイクチルセンである。うるわしいことばである。詩の百三篇十三節に「父がその子をあわれむがごとく、エホバはおのれをおそるる者をあわれみたもう」とあるそのあわれみを意味することばである。救いは神のあわれみによる。阿彌陀（あみだ）の慈悲、エホバのあわれみ、弱者をあわれむの心にいたつては同一である。ただしわれらの神は焼き盡くす火であつて、そのあわれみは義をもつて現わる。ゆえに、より深い、より確實（たしか）なるあわれみである。このあわれみに對する謝恩としての道德である。宗敎道德が純道德と異なる點はここにあるのである。

　「その身を…供え物として神にささげよ」。キリスト敎道德の發端（ほつたん）はここにある。まずおのが身を供え物の生贅（いけにえ）として神にささぐる事である。祭にいろいろある。燔祭（はんさい）がある。素祭がある。罪祭がある。愆祭（けんさい）がある。酬恩祭がある。しかしてここにいう供え物とは酬恩祭の供え物である。「人もし酬恩祭をささぐるにあたりて、牛をとりてこれをささぐるならば、雌雄にかかわらず、その全きものをエホバの前に供うべし」とある。また羊にても、やぎにても可なり。ただその全きものたるを要す。事はレビ記第三章につまびらかである。酬恩祭は燔祭の後に來たる。しかして信者の場合においては、燔祭は、世の罪をおのれに負うて全き罪の犧牲（いけにえ）になりたまいし神の供えたまいし小羊イエス・キリストをもつてささげられたのである。「なんじ、いけにえの供え物を好まず。ただわがために体を備えたもう」とヘブル書十章五節にしるされたるその体、すなわちキリストの体である。神はわれらのささぐべき犧牲、すなわち燔祭、罪祭、愆祭の犧牲をわれらのために備えたまいて、これをわがささぐべき犧牲として受けたもうのである。かくしてわれらの燔祭はすでにささげられたれば、われらは今は酬恩祭の犧牲としてわが身をささぐべしとのことである。謝恩のための獻身である。信仰をもつてキリストの贖罪（しょくざい）の恩惠にあずかり、これに酬いんがために聖き生涯を送らんと欲するのである。信仰の結果たる道德である。神に對し義（ただ）しき關係に入つて、その必然の結果として起こる聖き義しき生涯である。これがキリスト敎道德である。

　「神の意にかなう聖き生けるいけにえ」という。神の喜びたもう供え物、彼の受けゐるるところとなるもの、しかして神は聖くありたまえば、彼が喜んで受けいれたもう供え物もまた聖くなければならない。しかして、いけにえは生けるものたるを要す。この點において新約のいけにえは舊約のそれと異なる。舊約にあつては、牛や、羊や、やぎは、ほふられて火祭としてエホバの前にささげられたが、新約においては、信者はその身を生けるままにて、イエス・キリストのおん父なる眞（まこと）の神にささぐるのである。生きて善行の善き實を結ぶ供え物として神にささぐるのである。ほんとうの人身御供（ひとみごくう）である。生きながら、聖き神の聖き器として使われんためのいけにえである。これ以上の尊き獻身のありようはずがない。