日本福音同盟 1996年 真宗教団連合 2001年 韓国政府
野党論評 与党論評 中国政府

1  日本福音同盟


内閣総理大臣 橋本龍太郎殿

さる7月29日、貴殿が「内閣総理大臣」と記帳して神道方式で靖国神社に参拝されたことは、事実上の「公式」参拝であり、それゆえに韓国・朝鮮、中国、東南アジア諸国からも激しい反発を招きました。私たちは、以下の理由で、貴殿の靖国神社「公式」参拝に抗議し、以後このようなことが繰り返されないよう強く要望します。

1.首相・閣僚の靖国神社「公式」参拝は、国の宗教活動を禁止した日本国憲法第20条第3項に違反します。首相・ 閣僚には、第99条に定めるように、特に「憲法尊重の義務」があります。

2.首相の靖国神社「公式」参拝は、政教分離の原則に違反するだけでなく、過去の侵略戦争を正義の戦争として 美化し、天皇のための戦没者を「英霊」視し、靖国神社の国営化に道を開くことになります。

3.そのようなことは、首相が主張するアジア重視の政策と根本的に相容れません。首相は8月14日、「女性のためのアジア平和国民基金」を元「従軍慰安婦」への償い金として支給する際に添える手紙に、「わが国としては、道義的な責任を痛感しつつ、おわびと反省の気持ちを踏まえ、過去の歴史を直視し、正しくこれを後世に伝える……」と書いておられます。また8月15日の政府主催の「全国戦没者追悼式」で、「アジアの諸国民に対しても多くの苦しみと悲しみを与えました。私は、この事実を謙虚に受けとめて、深い反省とともに、謹んで哀悼の意を表したいと思います」と述べておられます。首相の靖国神社「公式」参拝は、そのような首相の気持ちと決意に水を差す、本質的に矛盾した行為です。

1996年9月6日
日本福音同盟 舟喜 信


2 真宗教団連合

首相・閣僚の靖国神社公式参拝中止を再度強く要請します

 本年も、私たちは「戦没者を追悼し平和を祈念する日」である八月十五日を迎えます。わが国が「大日本帝国」の名のもとに、日本にとどまらず、多くの国を巻き込み、数知れない多くの人びとを犠牲にした戦争が終結した日であります。それは、日本はもとより多くの国々の人びとの今もなお癒されることのない、悲しみと苦しみの現実を認識し、人間の営みの愚かさを改めて問い直すべき日でもあります。

人間は有史以来、その自己中心(我執)という在り方ゆえに自己の正当性をかかげて、人が人を傷つけ、いのちを奪い合う闘争を繰り返してまいりました。釈尊は、その人間の在り方を深く悲しみ、その中から、生きとし生けるものが共に一つの世界を生きることの出来る道を求め、万物普遍の教えを説かれました。私たちが宗祖とする親鸞聖人もまた、その心を受け継ぎ、「世の中安穏なれ」と愚かなる私たちが、真に人間として歩むべき方向を、生涯を尽くして示されました。

しかしながら、悲しいことに、かつて私たちもその教えに背き、自己を正当化し、国家が起こした戦争行為を無批判に容認し、多くの人びとを戦地に送り出し、また、諸外国の人びとに言語に絶する惨禍をもたらしました。私たち真宗教団連合はこのことを、この「戦没者を追悼し平和を祈念する日」にあたって、あらためて深く懺悔するとともに、仏の前に自らを戒め「非戦・平和」の願いに生きることを、重ねて決意し、すべての戦争犠牲者に追悼の誠を表するものであります。

靖国神社は明治政府の国家神道体制のもとで創設され、人間の自己中心性の恐ろしさを問うことなく戦争を正当化し、国家の戦争責任を回避する機能を果たしてきた特異な宗教施設であります。そこには、靖国神社の合祀規定に適合した戦没者のみが「英霊」として祀られる一方で、原爆、空襲等にて亡くなられた多くの方々は祀られることのない、極めて差別的な一宗教法人であります。

先の大戦の尊い犠牲と深い反省の上に制定した日本国憲法では、戦争放棄を明確に表明しました。また、明治以降、国家と宗教が密接に結びついたことで、様々な精神的歪みをもたらしたことへの反省から、信教の自由と、国家といかなる宗教との結びつきをも排除する政教分離規定とを設けました。そのことは「愛媛玉串料訴訟」の最高裁判決でも明確に裁断が下されました。国の機関たる首相・閣僚の参拝は靖国神社創設の経緯からも憲法の精神からも決して許されないことであります。それにもかかわらず首相におかれましては、就任以来、靖国神社参拝に関して、決して看過できない発言を繰り返しておられます。これは、国際的に世界の中の日本として進むことを目指す法治国家の首相の発言としては断じて認めることはできません。このことはすでに、六月五日付の貴職宛て靖国神社参拝中止要請にても申し上げております。

平和と共生の国際社会の実現が切に求められている今日の時代にあって、靖国神社公式参拝のもつ問題性を十分に認識され、首相・閣僚としての公式参拝を中止されますことを再度強く要請いたします。

2001(平成13)年8月3日
真 宗 教 団 連 合

浄土真宗本願寺派   総  長     武野 以徳
真宗大谷派   宗務総長     木越  樹
真宗高田派   宗務総長     安藤 光淵
真宗佛光寺派   宗務総長     大谷 義博
真宗興正派   宗務総長     秦  正静
真宗木辺派   宗 務 長     永谷 真龍
真宗出雲路派   宗 務 長     菅原  弘
真宗誠照寺派   宗 務 長     波多野 淳護
真宗三門徒派   宗 務 長     阪本 龍温
真宗山元派   宗 務 長     佛木 道宗

内閣総理大臣
   小 泉 純 一 郎  殿


3 韓国政府および各紙の論説 2001年8月14日

1 韓国 金大中大統領 第56周年光復節の記念演説

「最近、日本の一部勢力によって、歴史を歪曲しようとする動きがあった。」と歴史教科書を巡る両国関係の悪化に言及。「わが民族に与えた多くの加害事実を忘れたり、無視しようとする人々と、どうしてよい友達となり、安心して未来をともに生きてゆけましょうか」と批判した。

2  政府声明

「深い遺憾を表する」
「小泉総理が近隣国家と真の友好善隣関係を構築しようとするならば、正しい歴史認識を基に関連国家の立場と国民感情を尊重せねばならない」と強調。

 韓国 朝鮮日報

「アジア全域の2000万人の(戦争)被害者の遺族たちが戦犯の前に伏す日本の総理の姿を見ながら、再び戦争をおこさないという日本の約束を果たして信頼できるだろうか」と論評。また各紙は「首相の談話をみればそれなりに熟慮した跡がある」と評価する外交当局者の談話も掲載している。


4 中国政府および各紙の論説 2001年8月14日


1 中国外務省 王毅次官(アジア担当)

「小泉首相が中国を含むアジア近隣諸国、および日本国内の強い反発を顧みず、A級戦犯の位牌を供奉する靖国神社を参拝したことに対し、中国政府と人民は激しい憤慨を表明する。」

2 人民日報 論文

「侵略戦争の象徴である靖国神社に公然と参拝したことは戦争被害者を蔑視するものだ」と非難。終戦記念日を避けたことについても「8月15日を避けたとしても、問題の本質をすり替えることはできない」と断じた。

3 新華社 評論

「靖国神社参拝は戦争被害者の感情を傷つけ、また日本は中国を含むアジア諸国、国際社会の信用を失った」との認識を示した。



5 野党論評  2001年8月14日 産経新聞各党コメント

1 民主党 鳩山由紀夫党首

「日にちをかえるとか参拝の仕方を神社形式から変えるとかあいまいなやりかたで済ませるということが姑息な手段だ。首相はA級戦犯合祀問題、憲法に抵触するという問題についていっさい答えていない。過去の歴史を曖昧にしながら、解決をしようとしたことが関係諸国との信頼を失ったのではないか。極めて残念で、強い憤りを覚える。」

2 共産党 志位和夫書記長

「靖国神社は普通の神社ではなく、侵略戦争を正しい戦争であったとする立場で戦没者を祀っている特別な神社だ。参拝したと言うことはどういう理由をつけようとも首相自らが侵略戦争を肯定する立場に身を置いていることを行動をもって示したということで許されない。日にちを移したが、問題の本質は何ら変わるものではない。姑息なごまかし以外のなにものでもない。

3 社民党 土井たか子党首

「参拝強行に強く抗議する。15日を避けて近隣諸国の反発に配慮したと言っているようだが、何が何でも参拝しなければならないという理由がわからない。憲法20条の信教の自由、憲法89条の政教分離の原則に違反する。日にちを変えても参拝したという事実は変わらない。首相に私人というのはあり得ない。

4 村山富市元首相は「A級戦犯が合祀されている靖国神社を首相が参拝することは国内外で抵抗感があり、(村山談話を)日本がアジア諸国に示した歴史認識は日本だけの問題ではないことを知るべきだ。」などと反発。村山談話は過去の歴史に関する日本政府の公式見解として定着しているが、それが靖国神社参拝で使われたことに、村山首相は「その後の橋本、小渕首相らも私の談話を真摯にうけとめてくれた。小泉首相も私の意を受け止めて引用してくれたのなら矛盾しない言動を期待したい。」と述べ、首相の今後の言動に注文した。
2001年8月15日 


6 政府与党の論評  産経新聞各党コメント

1 自民党 山崎拓幹事長

首相の参拝は、一国の指導者として国家のために一身を犠牲にされた戦没者に哀悼の誠を表するとともに、2度と戦争の惨禍を引き起こしてはならない、世界とアジアの平和実現のために一身を投げ出して尽くさねばならないとの強い不戦の思いからの行動であると確信する。

過去の歴史への反省の弁を踏み込んだ表現で述べたこともね首相の真摯な真情を伺い知ることができる。国内外の懸念の声や与党内の慎重論などを総合的に判断された結果で、総体的に見てこれ以外になかった苦渋の決断だったと思う。

2 公明党 神崎武法代表

憲法に規定された政教分離の原則に違反する疑いがあるだけではなく、外交上の問題を繰り返し指摘してきたが、にもかかわらず参拝を行ったことは残念だ。終戦の日を避けたことで一応の配慮は見られたが、周辺諸国の反発は避けられない。

政府は近隣諸国との関係に深刻な影響が出ないよう、誠意を持ってあらゆる外交努力を払うべきだ。首相が今後、アジア諸国との関係改善をどのように図るのか対応をしっかり見守りたい。連立与党として「国立墓地」等の設置を真剣に検討してゆきたい。



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