9月のメッセ−ジ   2003年

 

ことは人間の願いや努力によるのではなく、あわれんでくださる神によるのです。」(ロマ916)

紫門ふみさんは「東京ラブストリー」という小説で、現代の若者の恋愛心理を描きました。赤名リカは自律した行動的な女性で、世間体など気にせず自由奔放に生き、周囲の人をしばしば振りまわします。しかし人から真剣に愛されるとその愛にどう対処したらいいのか混乱し、過呼吸発作を起こしてしまい、愛されることが重荷となり結果的に逃避行動に出ます。

関口さとみは大事なことを自分で選べず人に依存する女性として描かれます。気立ての良い子と評価され、かわいがられますが、主体性のなさにしばしば苦しみます。二人ともあまり幸せな生き方をしているとはいえません。

他人志向・依存的な人生では幸せになれませんが、何でもすべては自己選択と自己決定にかかっているという自力中心主義な生き方にもやはり限界があります。

京都女子大学の大塚義孝先生は講演会で、「人間は一人では生きてゆけない。同じ時間は永遠に来ない。そして運命は選択である。」と語られました。他者との共存関係。時間は永遠に過ぎ去るのだから今を大切に生きなければならないという時間感覚。そして運命は結局のところ選択と決断の連続だから、先送りしないで決めるときには決める覚悟。これらは、自律した生き方の三大原則といえます。

同時に先生は「われわれは縁があって一度だけ地球上に招待された。だから感謝を忘れてはならない。」とも強調されました。長年、女子教育に尽力された仏教系大学の先生らしい、バランス感覚のよさを感じました。「縁があり招待されて」という言葉の中に存在している、「与えられ生かされている存在としての自己理解」は、とても大切な感覚だと思います。

確かに人生は選択の連続であり、自己選択、自己決断の積み重ねです。しかし、なによりも創造主である神の御支配、あわれみ深い御心の中で人生は大きく導かれているのです。

神のあわれみが先行し決定権を持っていることを人生の出発点におくとき、謙虚さと感謝が生まれてきます。そしてこの感謝の心こそが幸福な人生のバロメターなのです。  ( 八月二十四日 礼拝説教より )  

                 

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