7月1日(日)「イエースとノー(即と非)」説教要旨
詩編139:7-10 ローマ3:21-26

  洋の東西を問わず、宗教的真理には、イエース(肯定)とノー(否定)が同時に起こる事実があります。むしろ、否定(駄目だ)の時、肯定(救い、悟り)があるのです。「しかし、わたしの足がすべると思った時、主よ、あなたのいつくしみは、わたしを支えられました」(詩編94:18)。このように絶対の否定が、絶対の肯定につながる、これを救いの経験と言います。

  カール・バルトは、ザーフェンビルという田舎町で牧師をしていた時、説教に苦しみました。彼の問いは、「どうしてこの罪深い人間が、神の言葉を語ることができるのか」という、説教の本質的問題でした。
  苦しみの末の答えはこうでした。「できない」。しかし、「しなければならない」、だから[恵みによって]「できる」。つまり、イエースとノーが、同時にあるようなものでした。罪深い人間には「できない(ノー)」のです。しかし、にもかかわらず、「できる(イエース)」のです。これは「アルプスの峰を行くがごとし」だと、彼は言い、これを永遠と時間の質的な相違から、質的弁証法(パラドクス)と名づけました。

  仏教にも同じような事実があります。仏教哲学者鈴木大拙は、これを「即非の論理」と申します。「即身成仏」(そのまま仏になる)、「一切衆生悉有仏性」(すべての生けるものは、そのままで仏の性をもつ)、「煩悩即菩提」(罪の深さそのまま悟り)など、みな即非の論理です(即はイエース、非はノー)。
  しかし、袴谷という仏教学者は、これを「本覚思想」と言って軽蔑しました。道元も座禅し必死の苦行しなくては、悟りに入れないと言いました。

  聖書にもあります。
  • 「やみは私をおおい、私を囲む光は夜となれとわしが言っても、あなたにはやみも暗くはなく、夜も昼のように輝きます」(詩編19:12)。
  • 「アブラハムは、この神、すなわち死人を生かし、無から有を呼び出す神を信じたのである。彼は望なき時に、なお望んで信じた」(ローマ4:17)。
  • 「罪の増すところ、恵みもいやませり」(ローマ5:20)。
  • 「私たちは、その死にあずかるバプテスマによって、彼と共に葬られた。それはキリストが父の栄光によって、死人の中からよみがえられたように、私たちもまた新しいいのちに生きるためである」(ローマ6:4)。

  ルターは、「全く罪人にして全く義人」と言いました。しかし、これらをただ弁証法とか即非の論理にしたなら、袴谷や道元の言うように、危険思想でしょう。ブロッホは、「キリスト者はキリストの十字架をつけにしてただで飲み食いしている」と、その安易なことを非難しました。しかし、ボンヘッファーは、十字架のキリストという「高価な恵み」だと言いました。
  パウロが、罪人が義と認められる真理に達するには、そこに大きな戦いがありました。パウロはダマスコ途上での経験がありました。ルターという人は、ホルによると、「躁鬱的傾向で、たえず疑いと弱さをもつ人にすぎなかった。うつを脱却してそうに移る時、神からの力を得ました。彼は悪魔を見てインク瓶を投げたと言います。苦しみ、死、逆転、その中に、神がいます」。私たちも同じではないでしょうか。どの人もその人なりの苦悩と戦いあって、この真理に達するのです。

  ただここで一つ、仏教の即非の論理とキリスト教のパラドクスとは違いがあります。仏教の場合、直接的です。修行はしても、それは自分ですから、無媒介です。私が悟るのです(ただし浄土系は別)。しかし、キリスト教の場合、
  • 1. 人間中心ではなく、神中心です。
  • 2. キリストの十字架という媒介があります。イエス・キリストの十字架の死にあわせられる行為が信仰にほかなりません。けれどもここにも危険はあります。それはいつのまにか、救いが習慣化することです。しかし、祈るにしても真剣に祈ってごらんなさい。そこに事が起こるのです。そこでイエースとノーが一つになるのです。
  • 3. 神中心ですから恵みの剰余があります。「罪の増すところ、恵みもいや増す」。恵みは「はるかに勝って、罪を越す」のです。「私たちを愛してくださった方によって、これらすべての事において勝ち得てあまりがある」(ローマ8:37)。
  •  
  • 4.「こうして神自らが義となり、イエスを信じる者を義する」(ローマ3:26)。義が徹底化する底に、私を義とする神の義が生きるのです。
つまり、ゆるし、恵みが起こるのです。この神の義がある点、仏教と違います。
ぜひ、あなたも礼拝に出席して直接お聴き下さい。一人でも多くの方のご出席を心からお待ちしています。
   


Copyright(c)2005 Setagaya Chitose-Church All rights Reserved.